専門家が解説!上手な贈与の利用方法
相続と贈与どちらが得か?
生前贈与とは、生きているうちに無償で財産を人に譲ることをいいます。
つまり、単なる「贈与」のことですが、遺言によって死後に財産を譲る「遺贈」や、自分が死んだ後に財産を与える契約を生前に相手方としておく「死因贈与」と区別するための用語です。
生前贈与は、財産を譲りたい相手に確実に承継させることができるほか、将来負担すべき相続税を抑えるためにも利用されます。
生前贈与の注意点
生前贈与の際の注意点は、次の4点です。
1. 贈与税と相続税の節税額の分岐点を確認しておくこと
2. 遺産分割の際に、特別受益として、トラブルとならないように注意すること
3. 贈与契約書を作成し、公証人役場で確定日付を取っておくこと
4. 相続開始前3年以内の相続人に対する贈与は、相続税申告の際、相続財産として加算されることを確認すること
生前贈与で大きな問題となるのは贈与税です。贈与税は暦年課税で、1年間の基礎控除額が110 万円です。つまり、年間で110 万円以下の贈与については課税されず、申告も不要です。贈与する人の財産を徐々に減らすことができるため、一番シンプルな相続税対策だと言えます。なお、贈与税の税率は下記のとおりです。
贈与税の税率表 | ||||
基礎控除後の 課税価格 ※ |
一般贈与 | 特例贈与※ | ||
税率 | 控除額 | 税率 | 控除額 | |
200万円以下 | 10% | - | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 55% | 400万円 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 400万円 | 55% | 640万円 |
※110万円の基礎控除額を引いた残りの贈与額について課税されます。 ※特例贈与は、20歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合です。 |
また、仮に贈与財産が110万円を超えて贈与税を支払う場合であったとしても、贈与税の税率が相続税の税率を下回っている限り、贈与税を支払ってでも生前に財産を減らしておくという選択肢もあります。また、相続人ではない孫への贈与を行うと、相続を一世代飛び越えることになり、相続税の課税を1回減らせることになるため、節税効果を受けることができます。
さらに、複数の受贈者に分散させて贈与するほうが税率は低くなります。
他にも、
① 直系尊属から住宅取得資金の贈与を受けた場合の非課税制度(住宅取得等資金の贈与の特例)
② 婚姻期間20年以上の夫婦間での居住用不動産ないし取得資金の贈与に関する最高2000万円までの配偶者控除(基礎控除と合わせると2110万円まで。配偶者への居住用不動産の贈与の特例)
③ 60歳以上の親や祖父母から20歳以上の子や孫(いずれも贈与をする年の1月1日現在の年齢)に対して財産を贈与する場合、通算で2500万円の特別控除額までは贈与時には贈与税が課税されず、贈与者が亡くなった時に相続財産と合わせて税額を計算する相続時精算課税制度(2500万円を超えた額については20%の税率で課税されます)。
④ 父母や祖父母から30歳未満の子や孫に対して教育資金を一括して贈与する場合には、子や孫ごとに最大1500万円までは贈与税を払わなくてもいいという制度(令和3年3月31日まで)
⑤ 父母や祖父母から20歳以上50歳未満の子や孫に対して結婚・子育て資金を一括して贈与する場合には、子や孫ごとに最大1000万円まで(結婚資金は300万円まで)は贈与税を払わなくてもいいという制度(令和3年3月31日まで)
を利用する方法もあります。
実際の生前贈与のやり方はケースバイケースで、贈与物や贈与者と受贈者の関係、贈与税の額、更には贈与時期などを考えた上で手続を踏んでいくことになります。