遺言書の保管と執行
遺言書の保管
遺言は書面で書くことになっていますが、遺言によって自らの意思を実現するためには、その遺言書を相続人に見てもらわなければなりません。
見てもらえなければ、せっかく作成した遺言は予期した効果が実現できなくなってしまいます。
従って、遺言書は遺言者が亡くなった後に相続人らがすぐにわかるような場所で、かつ、破棄されたり、隠されたり、勝手に書き換えられたりする心配の無い場所に保管しておく必要があります。
身の回りでそのような場所を探してみてください。
そのような場所が見つからない場合は、以下を参考に保管場所を考えてみてください。
公正証書遺言の場合
・公正証書による遺言は、遺言書の原本が公証役場に保管されています。
・従って、相続人らに遺言書を作成してある公証役場の場所を伝えておけば十分です。
・遺言された方が生存中は、遺言書の存在が明らかになっても、ご本人以外が公証役場を訪れて遺言書の内容を教えて欲しいと要求したり、閲覧を請求したりしても、公証人がこれに応じることはありませんので、遺言の秘密を保てます。もっともお勧めの方法といえます。
自筆証書遺言の場合
・法務局で自筆証書による遺言書を保管する制度が令和2年(2020年)7月10日から創設されました。亡くなった方がこの制度を利用している場合には、遺言書の原本が法務局に保管されています。
・従って、相続人らに自筆証書による遺言書を法務局に預けたことを伝えておけば十分です。
・遺言された方が生存中は、遺言書の存在が明らかになっても、ご本人以外が法務局を訪れて遺言書の内容を教えて欲しいと要求したり、閲覧を請求したりしても、法務局がこれに応じることはありませんので、遺言の秘密を保てます。
弁護士に頼む場合
・遺言書作成の際にアドバイスを受けた弁護士に保管を頼むという方法があります。
・弁護士は弁護士法23条により守秘義務を負っており、職務上知りえた事実を第三者に洩らすことは禁止されています。
・従って、遺言書の存在を秘密にしておくことも可能です。
第三者に頼む場合
・自筆証書遺言の場合、親族等に預けることもあります。
・しかし法定相続人など遺産に利害関係のある方に預ける場合には、隠匿、改ざんの恐れがあり、逆に紛争の元となりかねませんので、なるべく遺産に何の利害関係がない、公正な第三者に保管してもらうようにしてください。
遺言で遺言執行者を定めた場合には、遺言執行者に預けておくのが適当です。
遺言書のポイント
遺言書の検認(遺言書が見つかったら)
相続が開始し、遺言書が見つかったら、どのようにして遺言を実現するのでしょうか?
※ 公正証書遺言は、公証役場に保管されているので、相続開始後すぐに遺言者の意思を実現できます。また、法務局における自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度を利用している自筆証書遺言も、法務局に保管されているので、公正証書遺言に次ぐ速さで遺言者の意思を実現できます。
しかし、それ以外の遺言書はすぐに見つけられない場合もあります。
「公正証書遺言」及び「法務局における自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度を利用している自筆証書遺言」以外の遺言書は、見つけた時点で速やかに家庭裁判所に提出して、その検認を申立なければなりません。
家庭裁判所では相続人の立会いのもと、遺言書が開封され、検認されます。検認とは、遺言書の形式や状態を調査して、その結果を検認調書という公文書にしてもらう手続です。
遺言書の検認の申立から検認期日までの期間は、だいたい1~2カ月程度です。
なお、検認は遺言の有効・無効を判断するものではありません。
公正証書遺言は公証人に作成してもらった時点で公文書扱いとなりますから、検認の必要はありません。
遺言を早く開封したい気持ちはわかりますが、検認をせずに勝手に開封してしまうと偽造・変造を疑われ、紛争の火種になってしまうばかりか、5万円以下の過料に処されてしまう可能性があります。
開封せずに、まずは家庭裁判所に持って行き、検認をしてもらいましょう。
遺言書が2通以上見つかったら
もし、遺言書が2通以上見つかった場合は、効力は後の日付のものが優先されます。
日付は記載されているはずですが、開封することはできないので、見つかった遺言書はすべて家庭裁判所に持ち込むことになります。
遺言執行
遺言の検認が終わると、いよいよ遺言内容を実現させることになります。
遺言書を実現するにはさまざまな手続きがあり、遺言でそれを執行する遺言執行者を指定できます。
遺言の内容には、認知、遺贈、推定相続人の廃除又はその取り消しのように、実現するための行為を必要とするものがあります。
その行為をしてくれるのが遺言執行者です。
遺言ではそうした遺言執行者を指定したり、第三者に指定を委託したりすることができるのです。遺言執行者の指定は遺言の中だけで認められていて、生前の取り決めは無効になります。
職務が複雑になると予想される時は遺言執行者を複数名指定しておくことも可能です。
また、遺言で指定を受けた人が遺言執行者を辞退することも認められています。
遺言に指定がなかったときや、遺言執行者が辞任していないときは、相続人や利害関係人が家庭裁判所に選任の請求をすることができます。
遺言執行者は誰がなってもかまいませんが、法律の知識を要するので、弁護士などの法律専門家に依頼するのが通常です。
遺言執行者は選任を受けると早速遺言の執行にかかります。
遺言の執行手順
1)相続人への遺言執行者任務開始の通知
任務開始したとき、遅滞なく、遺言執行者に就職したこと、及び、遺言の内容を相続人に通知します。
2)財産目録の作成・交付
財産を証明する登記簿、権利書などをそろえて財産目録を作成し、作成後遅滞なく相続人に交付します。
3)相続人の相続割合、遺産の分配を実行する
遺言に沿った相続割合の指定をして、実際に遺産を分配します。登記申請や金銭の取立てをします。
4)相続財産の不法占有者に対して明け渡しや、移転の請求をする
5)遺贈受遺者に遺産を引き渡す
相続人以外に財産を遺贈したいという希望が遺言書にある場合は、その配分・指定にしたがって遺産を引き渡します。その際、所有権移転の登記申請も行います。
6)認知の届出をする
認知の遺言があるときは、戸籍の届出をします。
7)相続人廃除、廃除の取り消しを家庭裁判所に申し立てる
8)任務終了通知・執行の顛末報告
任務終了後、遅滞なく、相続人及び受遺者その他の利害関係人に任務終了、その経過、結果を報告します。
遺言執行者は、以上のような職務をこなしていかなければなりません。
遺言執行者は、相続人や包括受遺者(遺産の全部または割合的な一部分を遺贈された人のことです。)から請求されたときは、いつでも遺言の執行状況を報告する義務があります。
一方、執行が済むまではすべての財産の持ち出しを差し止める権限を持っています。
遺言執行者に対する報酬は、 遺言に記載があれば、その内容に従います。 遺言に記載がない場合には、相続人全員と遺言執行者との協議で決定することとなります。
協議が整わないときは、相続財産の状況、その他の事情(例えば、遺言執行行為の困難性・労力・費やした時間等)を考慮して家庭裁判所が決定します。
遺言執行者の報酬は、遺言執行の費用に含まれ、相続財産の負担となり、遺言執行者は、遺言で定められた報酬額または報酬付与の裁判で定められた報酬額を自己の管理する相続財産から差し引くという方法で受領しているのが一般的です
手続の依頼(専門家に依頼するには?)
遺言執行など複雑な手続きの処理をまかせるなら、やはり専門知識をもった弁護士にその職務を依頼することが望ましいです。
弁護士へは自筆証書遺言を作成するときのアドバイスや、公正証書遺言の作成支援を依頼することもできます。
また、相続開始まで遺言書の保管を任せることもできます。
公正証書遺言や秘密証書遺言を作成する際は、証人に任命することもできます。
あらかじめ弁護士に遺言の相談をしておくと、トラブルの少ない遺産相続の実現に役立つことにもなります。
当事務所では、お客様の状況にあわせて迅速な対応をいたします。ぜひお気軽にご相談下さい。